リクルートラブ、略してリクラブ。

インターンで知り合った彼。

チームが違ったし、あの時は、喫煙所で一言二言話しただけだった。

 

「あれ、インターンで一緒だったよね?」

 

圧迫面接を切り抜け、面接会場を出ようとしていたところ、

後ろから背中を叩かれた。

 

「わ、え、うん。久しぶり。受けてたんだ。」

名前が出てこない。なんだっけ。 

 

「うん。びっくりした。まさか一緒になるとは。」

 

インターンが同じ時点で、志望業界は一緒。

よくあることだ。でも、意外と話しかけない。

仲良くしたい子だったら、インターンの時点で仲良くしてる。

 

「飯でも食っていかない?」

「あ、うん。そうだね。」

 

お昼時。そういえば朝も食べてなかった。

1人でさっきの面接を反省しながらのランチも味気ないし、まあいいか。

 

適当に近くのうどん屋さんに入る。

 

「力うどんって、絶対食わないよな。」

「確かに。食べようと思わないな。」

「うどんに餅って、炭水化物と炭水化物って。」

執拗に力うどんを貶す彼。よくしゃべる人だ。

 

「私は月見うどんにしよ。決めた?」

「うん、決めた。」

 

店員さんを呼び止め、彼は言い放った。

「すいません!月見うどんと力うどんください!」

 

爆笑する私。

それを見て満足そうな彼。

 

「フリが効いてるねえ。」

 

こんなキャラクターだったんだ。

 

「あの時さ、喫煙所で話したよね。」

「そうそう、私が話しかけて。」

「昔憧れてた女の子に似てる、ってやつでしょ。」

「うん、ボーイッシュな女の子でね。」

「俺は俺で女の子っぽいからな。」

「確かに。目大きいし。小柄だし。」

「小柄は余計だぞ。」

 

ほとんど初対面なのに、会話のしやすい人。

 

「その女の子、しばらく会ってないなあ。卓球部だったなあ。」

「えっ俺も卓球部だったよ。」

「それは意外。卓球部のこと見下してるタイプかと思った。」

「いやいや、映画のピンポン見て憧れて入ったから。」

「ピンポンいいよね。窪塚陽介が最高。」

「おお、ピンポン知ってるのか。わかってるね。」

 

弾む会話。

会話に必要な、頭の回転、教養のレベルが同じなんだろう。

 

この人くらいのレベルなのか、私。

こういう時に、自分の大したことなさを感じる。

 

本当の自分の顔のレベルは、

「この人、自分よりちょっと下だな。」

って思う顔くらいだ、と昔聞いた。

認識している自分の顔は、鏡を見ている時で、自然といい顔をしているから。

 

 

そんなもんか。

 

「一緒の会社入れたら面白いね。」

 

餅に苦戦しながら彼は言う。

 

「そうだね。本当に。」

 

ある程度話すと、この人とはこれから何か起こる予感

つまり、一夜を過ごすことがあるだろう

というのが、わかる。

 

彼は多分、また会うだろう。

そして、一夜を過ごし、後悔し、付き合うことはない。

 

「力うどん、二度と食わねえ。」

 

「うん。それがいいよ。」

 

慣れないスーツを着た、未熟な2人は、

大して美味しくもないうどんを食べて、楽しく過ごせた。