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バリキャリ年上

元カレのネトストから、元カレの今カノ特定して、誤フォローしがち。

 

 

「クリスマスは何してたの?」

 

「あ、後輩と映画見に行きました、独り者同士で...笑」

 

「へえ...男の子?」

 

「え、いや...女の子ですよ〜笑」

 

なぜ嘘をつくのか。

別に言えばいいのに。

やましいこともないし。

その人に気があるわけでもないし。

なぜ嘘をついたんだ?

 

以前飲み会で出会った年上の男性とご飯。

中目黒のもつ鍋。一度来たかったお店。

今日は寒いし、ぴったり。

 

彼は頭が良くて、したたかな人だ。

ゲスいことも話せるあたり、したたかな人だ。

飾りっ気がないのは、自信があるから。

 

話しててすごい楽しいとか、ご飯をおごってくれるとか

そういう利点があるわけではないんだけど

家が近いのもあって、たまに一緒にご飯を食べる。

 

多分そういう、自分の確実な能力と実績を裏付けに

ちゃんと地に足いた自信を持っている人が、周りにはいないから

一緒にいると、自分のふわふわした生き方を見直せて

少し、落ち着くんだ。

 

もつ鍋、お店でちゃんと食べるの初めてかもしれない。

もつの脂が、白菜に沁みて美味しい。

ビールがすすむ。

 

「あ、そういえば、○○社落ちたんですよ」

 

「え、まじで」

 

そう、私は就活真っ最中。

すでに2社落ち。

その1社が、彼の会社。ITベンチャーではそこそこ有名な会社。

 

「いやあ、就活舐めてたのもあるけど、やっぱ○○社難しいっすね」

 

OBの方を紹介してもらったのもあって

一応報告しておかなきゃと思って言ったけど

言葉にするとやっぱり少しつらい。

 

「すぐ決まりそうだけどね」

 

そう言ってくれる人は多いけど

彼に言われるのは一番嬉しいかもしれない。

 

みんな嘘だらけだけど

彼はそこまで簡単に嘘をつかなそうだから。

 

会社の話を少し聞いて、

今は事業が上向いているようで

私も素直に嬉しい。

ウーロンハイがすすむ。

 

彼は若いのに、広告事業のマネージャーをしている。

若手に大役を任せることは、ITベンチャーにはよくあることだけど。

ちゃんと成果を出しているのだからすごい。

 

学生時代はテニスサークルの会長をしながら

自分でインターネット事業をして稼いでいた彼。

 

なんだ。それ。

 

就活で自己分析を散々してきた今

自分に何もないことを知った今

堪える格差。

 

 

 

「お腹大丈夫?シメ、食べれる?」

 

「はい!!」

 

このもつ鍋のスープ。

シメが美味しくなかったら奇跡だ。

 

ご飯を煮て、卵はかき混ぜながら入れて、ふわふわの雑炊。

 

 

 

ああ、なんだかもう、もう、なんでも、どうでもよくなってくる。

 

 

 

彼がすっとおたまをとって、自分の分を取り、

おたまを私の方に渡す。

 

女の子に取り分けてもらおうっていう精神が微塵もないところ。

そういうところ。

 

そして最高に美味しいこの食べ物。

お米と卵ともつ。

地球上の原子たちからこんなに美味しい物質が出来上がる。

突然世界が愛しい。

 

美味しいもの食べながら、美味しいお酒を飲んで

素敵な人たちとお話しながら生きていければそれでいい。

 

 

 

それはとっても贅沢なことだったと気づいて焦る。

今は経済的には両親に甘えて、自分のブランディングも、学歴と見た目によるところが大きい。

これで就活に失敗したら、お金も無くなって、肩書きが私らしくなくなったら。

そもそも私らしさ、なんて。

 

「美味しいね。」

 

「はい、とっても。」

 

今はもう、何でもいいや。

 

 

目黒側沿いを歩いて帰る。

 

「そういえば、クリスマスはどうしてたんですか?」

 

「クリスマスの日に彼女ができてね」

 

「えっ」

 

「2週間で別れた」

 

「駆け込み需要すぎる」

 

「うるさいな」

 

「いやいや、だってさすがに」

 

「君みたいに頭のいい子だったらよかったんだけどね」

 

「いやいやいや...」

 

頭がいいって、褒められるの、高校生ぶりで

お世辞でも全力で照れてしまう。

って、そんなお世辞言う人だったっけ。

 

「どこで知り合ったんですか?」

 

「飲み会だねー。やっぱああいう感じで会うとね、打率は低いよ。」

 

 

彼も飲み会で出会ったし。

どういう気持ちで言っているのか。

 

「レポート、来月には終わるんだっけ?」

 

「そうですね、今月末が締め切りなので」

 

「じゃあ、また来月に飲もう」 

 

 笑顔で頷いて、別れる。

 

ちょっとだけ、さっきの嘘の理由がわかった。