付き合う前に体を許してしまったら、もうその人とは付き合えない。
付き合う前に体を許してしまったら、もうその人とは付き合えない。
とかいうクソ記事を信じて、体を許さずにいたんだ。
一向に告白はない。
その気配もない。
デートは、やりたそうだなあ。が見え隠れして冷める。
とにかく家に来たがる。
そして私も、家に上げてしまう。
簡単に家に来させてしまうのがよくないんだと思って、
デートして、「今日は家来ないでね。」と強めに言ったら、
「んーうん。」って、面倒くさそうに。
簡単に家に上げるし、やらせてくれそうだから、一緒にいてくれるんだな、と。
その時に思ってしまった。
だから、今度会ったら、もうやらせてあげよう、と思った。
「今日家行っていい?」
とうとう家に直接。
普通のデートは省いてきたか。
いいよ、私ももう茶番はいい。
「うん、いいよ。」
多分、お互いに何となく気づいていた。
今日はそういうことになるだろうと。
ここまで来た、向こうのほうが一枚も二枚も上手だったことが証明された。
私が彼のことが好きだというのは、彼が一番わかっていたから。
誘えば断られない、それを繰り返せば、いつか折れてやらせてくれる。
「お疲れ。」
玄関先に立っていた彼は、本当に疲れて見えた。
「酒を買ってきましたよー。」
「ありがとう。」
私は酒を飲まないとする気にならない。
ということを彼は知ってか知らずか、お酒がいつもより多い。
「たんとお飲み。」
「うん。」
本棚を物色して、漫画を読みだす彼。
「お酒、飲まないの?」
「んー飲むよ。」
形だけ乾杯して、ああ、全然飲まないじゃん。
飲みすぎたら男の人は大変だもんね。
もう今日はそういう流れだ。
ビールを一気に飲み干し、もう1缶、もう1缶。
「いい飲みっぷりだねえ。」
「今日はいいの、もう疲れたから。」
「何してたの今日は。」
「永遠に映画見てた。」
「絶対疲れてないじゃん。」
だらだらした会話。
この後の展開に持って行くための、潤滑油、というか時間稼ぎ。
いつの間にか彼は移動していて、後ろから抱きついてくる。
「この漫画、続きないの?」
「まだ発売されてないの。」
「ふーん。」
知ってるくせに。
床に押し倒される。
きたきた。
「床、痛くない?」
「床、痛いです。」
「ベッド行く?」
「え、あ、うん。」
なんだその誘い文句は。倒してきたのはそっちじゃないか。
うん、って言っちゃうよそんな。
ベッドまで手を引っ張られて、ああもう、これは。
クソ記事によると、付き合えないのかなもう。
と思いながら、一回やってしまったら、もしかしたら何か変わるんじゃないかとか。
いや、どうでもいいや。
「えっと、シャワー浴びなくても大丈夫なタイプ?」
「うん。」
「電気消していい?」
「え、ヤダなー。」
「消さないと私がヤダ。」
「うーん、まあやっとやる気になってくれたし今日はよかろう。」
今日は、ってことは、今後も、
と思うと、少し嬉しい自分が悔しい。
リモコンで電気を消して、もう戻れない。
体の相性は別にいいわけでもなかった。
でもダメだ、好きだからなんでもいい。
早々に寝てしまった彼の頭を、起こさないように撫でながら。
可愛い、好き、セックスの間に言ってくれたこと。
セックスが終わってキスしてくれなかったこと。
小一時間の、いろんな行動を取り出して、彼の気持ちを分析する。
クソ記事で得た知識を用いて。
「んーまだしばらくは彼氏できんな。」
別に彼のためにヘコんでなんかいない。
付き合う前に体を許してしまったら、もうその人とは付き合えない。
その通りかもしれない。しかし誤解してはいけない。
付き合う前に体を許さなければ、その人と付き合える、というわけではない。
どうせ付き合えないなら、せめて体を許して関係を続ける、という選択肢が
あのクソwebメディアに書いていないあたり、やはりクソだ。
寝顔が可愛い。大丈夫、幸せ。