22時を過ぎてからの誘いは(1)
「おい、飲むぞ。」
14時にサトルくんからメッセージ。
就活で何かあったんだろう。
「うむ、あり。」
今日は何もないし、昼から飲むのも悪くないや。
「もう、落ちたよーくそー。」
合流そうそう抱きつかれる。
「よしよし。」
頭を撫でながら、こいつ彼女いるんだよな、と思う。
「まあ、パーっと飲もう。バイト代入ったしおごるよ。」
「うわああん、お前はもう決まったからいいよなあ。」
「サトルくんの就活が終わるまで付き合うよ。」
そう、先日ようやく内定が出た。
第一志望群。もう就活をやめてもいいけど、サトルくんに合わせてもう少しするつもり。
私が就活でつらい時に助けてくれたのは彼だったから。
今度は私が助けたい。
今日は三軒茶屋。
すずらん通りの焼きトン屋さん。
「ここ安くて美味しいんだ。今日は好きなだけお食べ。」
「マジでいいの?おごってもらうよ?」
「うん。最近ね、人にご飯食べさせるのが好きなの。」
「お前、彼氏いなさすぎてとうとうその境地に...。」
「うるさいよ。生でいい?」
生ビールで乾杯。
まだ14時半。背徳の味。
一通り就活の愚痴を聞いて、落ち着いたみたい。
「ありがとう、心の友よ。」
「いえいえ、話聞いてるだけよ。」
よくこんな仲になったものだ。
いろいろ、一悶着もあったのに。
結局遊ばれてるだけなのかな。
まあ、良いんだけど。
「最近どうなの?」
「何が。」
「彼氏とか。」
「珍しいこと聞くのね。」
いつも下ネタは話すけど、お互いの恋愛のことは聞いてこなかった。
こうやって2人でいる時に、彼の彼女の話をするのは、お互いなんとなく気まずかったから。
「もう全然いないよ。良いなと思ってた子には彼女できるし。」
「そっか。」
「つか、彼女いるんだよね?」
「うん、まあ一応ね。」
一応ってなんだよ。
「別れるのも、面倒だもんね。」
「そう、そうなんだよね。」
「今まで何人と付き合ったの?」
「2人。今の彼女と、高校の時の先輩と。」
「えっ見えないね。」
もっとチャラチャラしていたんだと思ってた。
「先輩、大好きだったな。浮気されてたけど。」
「へえ、忘れられなさそうだね。」
「うん、人生で一番好きだった。」
まだ20そこそこだろ。の言葉は飲み込んだ。
彼の顔がすごく切なそうだったから。びっくりしてしまった。
そういえば、前、「お前、元カノに似てる」って言ってた。
元カノって1人しかいないじゃないか。
「そういうことか。」
「え?何?」
「いや、なんでも。」
彼が私といるのは、元カノと重ねているから。
一目惚れ、なんて、初恋の人に似てただけでしょう。
「電話、なってるよ。」
「あっ、本当だ。」
後輩くんから。彼女、できたって言ってたのに。
「ごめん、ちょっと出るね。」
もうドキドキしてる。
「もしもし、どしたの。」
「いや、今何してますか?」
「三茶で飲んでるよ。」
「僕の家こないですか?」
「珍しいね、お家呼んでくれるの。」
「まあ、はい。」
「あとでLINEするわ。」
どういうつもりなのか本当にわからない。
遊ばれているだけでもいいと思ってしまう自分と、
もうこれ以上傷つきたくない自分がいる。
「大丈夫?」
「うん、ちょっと、会いに行こうかな。」
「また?遊ばれてるだけでしょ。」
「うん、そうなんだけどね。私も割り切ってるしいいよ。」
嘘。割り切れてなんかいない。
私も遊ぶことはそれなりに覚えた。
でも、やっぱり情はうつってしまう。
「お前の家行こうと思ってたのに。」
「ごめん。終電ギリギリまで付き合ってもらって。」
「いや、付き合ってくれてありがとうはこっちだけど。」
「ごめん。後輩に会ってくるや。」
すごい悲しい顔。
その顔があまりに綺麗で、頰に触ってしまった。
「何?チューする?」
「しないよ。おやすみ。」
終電に乗る彼を見送って、後輩に連絡する。
今から向かうから、30分くらいかかる、と。
何してるんだろう私。
何回目だろ、こういうの。
人を傷つけて、自分も傷つけて。
お酒くさそう。私。タバコも吸っちゃった。
千鳥足。
今日はすごい飲んだ。
お酒のせいにしちゃおう。
にやけてしまう自分が気持ち悪い。
ろくなことない、なんてわかっているのだけど。