読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ただひたすらやさしいぬるま湯

30歳のバンドマン。


中肉中背。普通の顔。眼鏡。


気取ってるわけでもない、

嫌味のないドラマー。


夢を追ってるとか、そういうのじゃなくて、

そうして生きていくしか方法がなかったことをわかっている。


面白みはない、そこにストーリーはない。


彼とはライブで出会った。

知り合いのライブで、スタッフが足りないということで、受付を手伝っていた。


彼もスタッフとして入っていた。

バタバタした会場で、あまり話すことはできなかったけど、

ツイッターだけとりあえず繋がった。


翌日、DMが届いた。

「昨日はお疲れ様でした。もっと話してみたいと思ったんだけど、飲みに行かない?」


真っ直ぐすぎるメッセージ。


日本酒好きって言ってたし、美味しい日本酒飲みに行かない?


とか。


この間話してた映画、僕も観たいから一緒に観に行かない?


とか。


本当はただデートできればそれでいいことなんてわかってるのに

目的を他の地点に定めるのが一般的だ。


そうしないと、いけないんだ。


デートの評価を相手に完全に求めてしまうのは危険だから。


もしデートが失敗だったら、

それは日本酒が微妙だったから、映画が微妙だったからなんだ。


そういうことにして、お互いを傷つけないようにしているのに。



中目黒の大衆居酒屋。

オシャレな店を素通りし、目黒川沿いのこの選択。

ラミネートがボロボロになったメニュー。


とりあえず生。

それ以外の選択肢はない、大衆居酒屋。


高架下の新しいお店に、何度か行った。どこも素敵で、少し疲れた。


ここ、いいじゃないか。


生ビールで乾杯して、


「ほんと可愛いよね。」


こんな真っ直ぐに褒められると、

上手くかわすこともできず、ただただ照れてしまう。


なんの躊躇いもなく、そんなことが言えてしまうのは何なんだ。

年の差と、職の差とで、すでに安定した距離感があるから。


と深読みしたけど。

女の子を落とす荒めのテクニックか。

いや、女の子慣れしてるようにも見えない。

ただ言いたいことを言わなきゃ気が済まないタチなだけ。それだけ。


照れ隠しのお酒が進む。


ビールから始まり、ハイボール、焼酎、日本酒。


これは二日酔いしそう。


直球の褒め言葉をはさみながら、

ほろ酔いの会話は弾む。


ディズニーランドは基本的に苦手だけど、シーでお酒飲む楽しみ方はアリ、とか。


ポテトサラダはオシャレなやつじゃなくてシンプルなやつがいい、とか。


何気ないところで、やんわり共感する、楽しい会話のお手本のような会話。



こういう会話は、時間の濃度が低いから、すぐに終電を逃す。



「あれ、終電大丈夫ですか?」

「あ、もうないや」

「そうですよね…私はタクシーで帰れるけど、どうするんですか。」

「お金ないし、歩いて帰るよ。」

「えっそんな…どれくらいかかるんですか」

「3時間くらいじゃない」


そう言いつつ、飲み代は出してくれる。


「なんかすいません。家に泊めることもできないし、お金出してもらっちゃうし。」

「いやいや、それはそうでしょ。」


女の子慣れしているんだか、なんなんだか。よく分からない人。


「じゃあ、また、飲みましょう」

「うん、次は映画でも。」


タクシーに乗り込み、246は綺麗だ。


映画デートって、これもまた女の子慣れしてるのか、なんなのか。