みんな傷だらけ

自分ばかり傷ついていると思っていた。

 

体を許すことで、自分を犠牲に人を癒してるつもりだったんだ。

そのかわりに、私は一瞬だけ、孤独を忘れる。

男の人の性欲を処理し、抱きしめて安心をあげるための身体。

自分の存在意義の危うさに震える。

 

孤独な個体は、身を寄せ、お互いの弱い部分を見せ合って。

共感なんて、そんな暖かいものじゃなかった。

弱さは共鳴して、より大きくなる。

 

テレビに映る、田舎の幸せそうな家族を見ると、いつも驚く。

ちゃんと、幸せに生きれるんだ。

お金持ちじゃなくても、美人じゃなくても。

 

寂しかった。私たちはいつも。

理想と現実のギャップは人を孤独にする。

 

私はこんなものではないんだと、

周囲の人はわかってくれない。私はもっと上の存在なんだと。

 

でも、私が思う理想の人たちは、雲の上にいて、

本当は、今いる場所が私の実力で行けるギリギリの場所なのかと思いながら。

 

決して満足することも、努力することもなく。

 

今日も、付き合っていない、好きなのかどうかもわからない、彼と、

くすぐり合って笑いながら、体を交わして孤独をごまかす。

抱き合って眠ろうとするが、息苦しくなって、結局は背中を合わせて寝るの。

朝起きて、ベッドから出たら、まるで他人。

ハグもしない、キスもしない。 

そうして距離をとることで、期待させない。

 

それが、一番傷つかない方法だと思っていた。

人と寝た次の日は、疲れてしまって、夕方まで寝込む。

体が疲れてしまってるのではなくて、心がどうしようもなくクタクタなのだ。

 

孤独が、一瞬でも癒されるのは、人と抱き合っている時だけなんだ。

でも、それは麻薬のように、切れてしまうと心身はボロボロになる。

 

私と寝た翌日の彼のツイートは、少しメランコリーだ。

お互い、好きでもなんでもない。

孤独を必死でごまかそうとする度、少しずつすり減っていく。

すり減るところが無くなるまでそうして生きていくのかな。

 

いつか、田舎の幸せな家族みたいに、困難はあれど、

自分の現状に満足して、屈託なく笑えるんだろうか。

大学の元カレ

来世はお酒がない世界に行くんだ。

 

「今日空いてる?飯食べない?」

 

最後の期末レポートを提出し、心身ともにぐったりしていたところだった。

久々に元カレからの連絡。

別れてからも、友人のように仲良くしていたが、

ここ数ヶ月はぱったりと連絡が途切れていた。

 

「今日は疲れちゃって...家出れないからパス。」

 

「じゃあ、料理作ってやろうか?」

 

元カレを家に呼ぶのは色々と懸念がないこともない。

あれ、っていうか料理できたっけこの人。

 

しかし、コンビニに行く気も起きないこの疲労。

家に来て料理してくれる。ここから一歩も動かないで、料理が勝手に出てくる。

抗えぬ、魅力。

 

「それは是非お願いしたい。」

 

30分後、チャイムの音。レジ袋を右手に携えた彼が立っている。

「おー久しぶり。髪ボサボサかよ。」

 

大学に入ってすぐ、1年間付き合った後、別れた。

あまりに彼が居心地が良いので、私がダメになってしまった。

それが怖くて、私から別れを切り出した。

 

「料理、できたっけ?」

 

「数ヶ月でね、人は変わるのよ。」

 

「本当かよ。」

 

「いいから。パスタでいい?コンソメある?」

 

荷物を置いて、すぐ作業を始める彼。なかなか手際が良い。 

 

「なんで料理するようになったのよ?」

 

「あー。実は彼女できて。すげえわがままなの。」

 

未だに元カレに彼女ができると、心がぐずる。

まだかさぶたになりきってない、ぐずぐずの傷を刺激された感じ。

 

「それで、料理作れ、元カノと連絡は取るなでうるさくてさ。」

 

なるほど、数ヶ月前に会ったあの日からこの瞬間が繋がった。

 

「いいの?今、元カノの家きちゃってるけど。」

 

「もう別れたから無問題。」

 

呆れて別れたらしい。ちょっと嬉しい自分がおかしい。

 

いつの間にかいい匂い。ベーコンを焼いて、牛乳とコンソメを加えて。

クリームパスタだ。

 

「おお。ちゃんとしてる。」

 

ほうれん草とベーコンのクリームパスタ。見た目もきれい。

缶ビールを開けて、久しぶりの乾杯。

 

「いただきます。」

 

人の手料理を食べるの、久しぶり。そういえば実家もしばらく帰れていない。

 

「今日はイマイチだったな。」

 

「そんな、美味しいよ。私が作るのより全然。」

 

ありがとう、とぼそっと言って、パスタをかき込む。ちょっと照れている。

本当に、美味しい。ちょっと茹で過ぎたところが良い。家庭のパスタの味。

 

「ごちそうさま。」

 

洗い物は私がする。わかりやすい役割分担は良い。

居心地いい。疲れすらも心地よい。

 

洗い物を終えて、一緒にベランダに出て一服。

「なんか、俺たち夫婦みたい。」

 

よくもそんな恥ずかしいことを、さらっと。

 

 

「今日、泊まっていいよね?」

 

「まあ、そうなる気はしていたけど。何もしないよ。」

 

「それはわからないでしょ。」

 

 

寒い寒いとはしゃぎながら部屋に戻る。

その拍子に、肩が触れて、昔の感覚が一気に蘇る。

 

何だろう。もう友達になったと思ってたけど。

今日は何かが違う。疲れてるのかな。

 

テレビを見ながら、いつの間にか彼の手が私の肩を抱いている。

私は、抵抗する気も起きないほど疲れているのだろう。 

いいのかな。まあいいか。

 

「お前、やっぱいいな。美人はつまんねえからな。」

 

「褒められたのか貶されたのか。」

 

「彼氏できないの?」

 

「できてたら君を家に上げないよ。」

 

「じゃあ、付き合う?」

 

驚きと、でもどこか予定調和的なこの雰囲気。

別れてから、もう数年間そんな話にはならなかったじゃないか。

 

「よっぽど前の彼女に懲りたのね。」

 

「それもあるけど。やっぱり俺ら合うじゃん。」

 

 「そうだけど。もう少し遊んでたいでしょ、お互い。」

 

本心だった。彼といたら、落ち着いてしまうから。恋愛も何もかも。

 

「でもさ、遊びに理解あるじゃん。お互い。付き合ってても遊べるでしょ。」

 

なるほど、付き合いながらも、浮気を公認し合う。

彼以外にも関係を持つ。彼も、私以外にも関係を持つ。

このご時世言いにくいが、そういう形も私はいいと思う。

 

でも、それなら、別に、付き合う必要も感じない。

付き合って何が変わるんだろう。

付き合わないとキスやセックスをしない、というタイプではないのだお互い。

 

この人にとって、私にとって、付き合うって何なんだろう。

 

 

「まあまあ、今は別れたばかりで混乱してるのよ君は。」

 

適当にごまかして、日本酒を開ける。

家飲みはついつい飲みすぎる。

 

疲れとお酒。それが全て。

 

泥酔したふたりは、くだらないテレビでケタケタ笑った。 

記憶も曖昧なまま、一緒にベッドで寝た。

 

「俺は好きだよ、本当に。」

せめてもの理性を働かせ、背を向けていた私を

彼は後ろから抱きしめる。

 

キスをするのも、セックスをするのも簡単だ。

なのに、なぜキスをしたのか、なぜセックスをしたのか。

 

それでいつも、悩んでしまう、なりきれない。

 

とりあえず寝たふりをして、朝になったらお酒のせいにする。

したたかでつまらない常套手段。

 

思わせぶりな態度をとるのは、はっきりした答えを出さないのは、

駆け引きなんかじゃなくて、自分の気持ちがわからないだけ。

 

全部お酒のせいにして、私の気持ちは大したことないから。

梅昆布茶ダイエットをする。

気持ちがダメになってしまったからせめて痩せたい

 

永遠に書きあがらないんじゃないかと思うレポートがまだ1つある。

泣きながらなんとか書きあげたレポートでさえ、単位に届くか怪しい代物だ。

 

就活と期末レポートの重圧もう毎日酒が止まらない。

酒とタバコで脳をいじめ続けている。

 

昨日も結局終電を逃し、朝まで飲み、始発で帰り

起きたのは夕方。

 

レポートの締め切りが近い。

明日の面接の準備もしなければならない。

 

もうこんな文章を書いている暇はないし、

ぴったんこカンカンを見ている場合ではない。

 

永遠にテレビを見ながらお酒を飲みながら頭を使わずにいたい。

 

やる気が出ない。鬱ではない。

ただのモラトリアムの深みにはまった普通の大学生。

ただのファッションクソメンヘラ大学生。

 

せめて痩せよう、何もないけど、せめて痩せよう。

そしたらいつも何も書くことないESの特技欄、ダイエットって書ける。

痩せて、雰囲気美人にもなりやすくなる。

メンヘラみも増す。

 

何もないから、せめてダイエットする。

 

梅昆布茶ダイエット。

脳を脂肪と糖で満足させるのではなく、旨味で満足させる。

 

目標体重は40キロ。多分、-8キロくらい。怖くて体重計しばらく乗ってない。

 

成績は優!内定は5社以上!痩せて可愛く!

 

なんて思ってない。

 

成績は多分、慈悲の可だし、

内定は泡を吹きながら1社でも獲得できれば万々歳。

痩せたって大して可愛くなれるわけではない。

 

でも痩せるしかもう、自分のなけなしの根性で達成できることがない。

世間は厳しかった。自分の能力を過信していた。

 

せめて痩せよう。

 

明日から

朝:昔買った粉末スムージー

昼:炭水化物少なめ

夜:炭水化物なし 

 

随時、梅昆布茶で空腹を紛らわす。

しかし明日は飲み会。明後日も飲み会。

 

終わってんな!!!!!

人生の暇をつぶすのは私には難しい

人生は暇つぶし。

 

そう思って、枝毛を見つけて切っていたら1時間経った。

そろそろ枝毛も簡単には見つからないし

死ぬほど飽きて死にたい。

 

 

もしこの1時間で、外に出る準備をしていたら

今頃このワンルームを飛び出して

美術館に出かけて

もう3時間は暇をつぶせたのに。

 

 

 

あるいはこの1時間、勉強していたら

世界は広がり、新たな発見があり、

また次の研究題材に心が躍って

もう1週間くらい暇をつぶせたのに。

 

 

もしくはこの1時間、就活をしていたら

自分に合った素敵な企業を見つけ

内定をもらえることになり

もう3年は暇をつぶせたのに。

 

 

コンビニでカップ麺買ってくる。

バリキャリ年上

元カレのネトストから、元カレの今カノ特定して、誤フォローしがち。

 

 

「クリスマスは何してたの?」

 

「あ、後輩と映画見に行きました、独り者同士で...笑」

 

「へえ...男の子?」

 

「え、いや...女の子ですよ〜笑」

 

なぜ嘘をつくのか。

別に言えばいいのに。

やましいこともないし。

その人に気があるわけでもないし。

なぜ嘘をついたんだ?

 

以前飲み会で出会った年上の男性とご飯。

中目黒のもつ鍋。一度来たかったお店。

今日は寒いし、ぴったり。

 

彼は頭が良くて、したたかな人だ。

ゲスいことも話せるあたり、したたかな人だ。

飾りっ気がないのは、自信があるから。

 

話しててすごい楽しいとか、ご飯をおごってくれるとか

そういう利点があるわけではないんだけど

家が近いのもあって、たまに一緒にご飯を食べる。

 

多分そういう、自分の確実な能力と実績を裏付けに

ちゃんと地に足いた自信を持っている人が、周りにはいないから

一緒にいると、自分のふわふわした生き方を見直せて

少し、落ち着くんだ。

 

もつ鍋、お店でちゃんと食べるの初めてかもしれない。

もつの脂が、白菜に沁みて美味しい。

ビールがすすむ。

 

「あ、そういえば、○○社落ちたんですよ」

 

「え、まじで」

 

そう、私は就活真っ最中。

すでに2社落ち。

その1社が、彼の会社。ITベンチャーではそこそこ有名な会社。

 

「いやあ、就活舐めてたのもあるけど、やっぱ○○社難しいっすね」

 

OBの方を紹介してもらったのもあって

一応報告しておかなきゃと思って言ったけど

言葉にするとやっぱり少しつらい。

 

「すぐ決まりそうだけどね」

 

そう言ってくれる人は多いけど

彼に言われるのは一番嬉しいかもしれない。

 

みんな嘘だらけだけど

彼はそこまで簡単に嘘をつかなそうだから。

 

会社の話を少し聞いて、

今は事業が上向いているようで

私も素直に嬉しい。

ウーロンハイがすすむ。

 

彼は若いのに、広告事業のマネージャーをしている。

若手に大役を任せることは、ITベンチャーにはよくあることだけど。

ちゃんと成果を出しているのだからすごい。

 

学生時代はテニスサークルの会長をしながら

自分でインターネット事業をして稼いでいた彼。

 

なんだ。それ。

 

就活で自己分析を散々してきた今

自分に何もないことを知った今

堪える格差。

 

 

 

「お腹大丈夫?シメ、食べれる?」

 

「はい!!」

 

このもつ鍋のスープ。

シメが美味しくなかったら奇跡だ。

 

ご飯を煮て、卵はかき混ぜながら入れて、ふわふわの雑炊。

 

 

 

ああ、なんだかもう、もう、なんでも、どうでもよくなってくる。

 

 

 

彼がすっとおたまをとって、自分の分を取り、

おたまを私の方に渡す。

 

女の子に取り分けてもらおうっていう精神が微塵もないところ。

そういうところ。

 

そして最高に美味しいこの食べ物。

お米と卵ともつ。

地球上の原子たちからこんなに美味しい物質が出来上がる。

突然世界が愛しい。

 

美味しいもの食べながら、美味しいお酒を飲んで

素敵な人たちとお話しながら生きていければそれでいい。

 

 

 

それはとっても贅沢なことだったと気づいて焦る。

今は経済的には両親に甘えて、自分のブランディングも、学歴と見た目によるところが大きい。

これで就活に失敗したら、お金も無くなって、肩書きが私らしくなくなったら。

そもそも私らしさ、なんて。

 

「美味しいね。」

 

「はい、とっても。」

 

今はもう、何でもいいや。

 

 

目黒側沿いを歩いて帰る。

 

「そういえば、クリスマスはどうしてたんですか?」

 

「クリスマスの日に彼女ができてね」

 

「えっ」

 

「2週間で別れた」

 

「駆け込み需要すぎる」

 

「うるさいな」

 

「いやいや、だってさすがに」

 

「君みたいに頭のいい子だったらよかったんだけどね」

 

「いやいやいや...」

 

頭がいいって、褒められるの、高校生ぶりで

お世辞でも全力で照れてしまう。

って、そんなお世辞言う人だったっけ。

 

「どこで知り合ったんですか?」

 

「飲み会だねー。やっぱああいう感じで会うとね、打率は低いよ。」

 

 

彼も飲み会で出会ったし。

どういう気持ちで言っているのか。

 

「レポート、来月には終わるんだっけ?」

 

「そうですね、今月末が締め切りなので」

 

「じゃあ、また来月に飲もう」 

 

 笑顔で頷いて、別れる。

 

ちょっとだけ、さっきの嘘の理由がわかった。

同期トガり男子

新年早々、っていつまで言っていいのかな。

 

今夜も当たり前のように男の子と2人。

私は本当に女友達がいない。

 

デートと呼んだら差し支えがある、いやまあないけど。

な会をする男の子が、ざっと10人くらいいて、

だから毎日のように飲んでいて、友達がたくさんいる気持ちになっている。

それって友達なの、とか考え出すと涙が出るからやめよう。

 

今夜の男の子は、大学に入学して、

すぐにサークルで仲良くなった、

同期のトガり男子。

2留の末に大学を辞め、今は起業している。

 

彼とは、大正モダン風の、モツ煮の美味しいお店で待ち合わせ。

いつの間にか髭を生やしている。

そして長く伸ばした髪を後ろでくくっている。

何者かのオーラ。誰やねんお前は。

 

私は就活に向け、黒髪ロングとなり、服装もモノトーン。

でも、大学入学当時の私は、

自意識過剰トガりクソ雑魚野郎で、

一瞬にしてそれが見て取れるファッションをしていた。

 

髪の毛は金髪ショート、いつも下北で買った変なピアスをつけて、

お気に入りのスニーカーは海外から輸入したド派手な黄色だった。

 

それなりにおしゃれだったとは思う。もう無理、いろいろと厳しい。

 

そんな当時の私を好きになってくれたのが彼だった。

しかし、「好きの入り」が、その私だったから、

たくさんの歪みが生まれてしまった。

 

とりあえず生2つをもらい、料理を頼む段になって、

「お雑煮ありますよ」と店員さんが声をかけてくれた。

テンションの上がる2人。あとで食べよう。

 

お正月だが、帰省をあえてズラした私たちは

あえてお正月を楽しむ感覚を共有していた。

彼は元日に凧揚げをしたらしい。あえてどころではない。

 

突拍子のない彼は、昔から私には手に負えなかった。

大学を裸足で歩き始めたり、図書館の屋上でバーベキューしたりしていた。

女性性を身につけると言って、ジェラピケのルームウェアを着てきたこともあった。最後はさすがにびっくりしたが、なんせ嘘。

 

彼は突拍子もなく、私には手に負えないわけだが、

彼自身は、自分の世界をコントロールできている。

彼にとっては、すべてが、あえて、なのだ。

 

たこさんウインナーがあった。

これをあえて頼む感覚、共有できる。

彼はその感覚が永遠に広がっている。 

 

彼はお金持ちになることが目標だ。

 

みんなが夢と現実とのギャップに打ちひしがれ、

大学入学当時の理想を少しずつ少しずつ、

自分も気づかないくらいに少しずつ少しずつ下げていく中、

 

彼はずっと自分の理想を保っていた。

それは完全に盲目的、というわけでもない。

彼は頭が良いし、バイタリティもある。

私なんかには手の届かないことを成し遂げる力があるように見える。

彼なりに勝算はあったのだろう。

 

あれから4年経った今でも、お金持ちという彼の理想はぶれていない。

 

生ビールを早々に飲み終わり、バイスサワーを頼む。

彼は飲んだことがないという。シソの風味だよ、というと

香りものが好きだから好きかもしれないとのこと。

  

彼はぶれない。そして彼の私に対する理想もぶれていない。

自意識の強さを背景に、自分ならではの道を歩み、

確固とした自分を持った個性的な子。

 

そんなことないのにな。

バイスサワーを飲みながら、バイスサワーを飲む彼の顔を見ながら思う。

 

本当は私だって、あの当時の自分が好きだったのかもしれない。

周りの目を気にせず、媚びず、自分の好きな洋服を着て。

 

私は早々に、理想追求チキンレースから降りたのだ。

 

すぐに手が届く幸せを理想に掲げて。

それでいい。バイスサワーとモツ煮が美味しい。

 

彼はきっと、あえて、私を好きでいてくれているのだろうな。

本当は全部知っている。私が取り繕いながら生きているのを。

そうだとして、彼は私に、何を見ているんだろう。

 

とかセンチメンタルに考えたところで、

新年の寂しさを紛らわすためだけの飲み会をエモに変換するのはやめような。

 

結局は人間。そんな高尚な考えで人を好きになるわけない悲しい人間。

怪訝な顔をされがちな彼を、私がただニコニコと彼を承認しまくるから

彼は私から離れがたいのだ。

 

キャバクラと一緒。ガールズバーと一緒。

それでいい。お雑煮が美味しい。

 

 

そんな彼が、

「やっぱお前は素敵だな」

え、素敵とか素で言えちゃうの。

 

自意識過剰トガり男の、素直な発言は

それが、あえて、であっても、

浸透力半端ない。

 

 

明日はユニクロの初売りに行かなきゃ。

そのあと、下北で変なピアスを買おう。

いつ死ぬかわからないし、私はエロくない。

いつ死ぬかわからない。

その深刻さ具合はさておき、そう思うことはよくあることだ。

 

いつ死ぬかわからない。

まだ死にたくないような気もするが 

それはある程度仕方のないことであるし

死ねば終わりで、そこは無で、後悔することもなかろう

 

しかし、家族のことを思うと

確実に、胸が苦しい。

死んではならぬと思う。

 

さて、ここに

『神は局部に宿る』都築響一presents エロトピア・ジャパン

の資料がある。

 

上記展覧会で500円で購入したものだ。

大学の帰りに一人、渋谷のアツコ・バルーで開催されていたこの展覧会に行った。

 

そこにはラブホテル、秘宝館、イメクラ等に関する資料で溢れていた。

整然と壁に貼られたラブホテルの写真の下には、ホテル名と料金設定が書かれ

生真面目な生物学者の研究のようだ。知らないけど。

 

私は感動していた。

本当に。マジで。

だからこの500円の資料を買った。

 

男の子が下ネタを話す。

女の子は、それにノるか、恥じらうか、気付かないふりをするかという選択をせまられる。

どの選択をするにせよ、何かしらの戦略的思考が隠れていると私は思う。

 

女が下ネタにノる。

それは「私はそういう話もできる女」と示すためだ。

男のそういうの理解してるし、動じないよ。

空気よんで、話に乗れる、キャパシティあるよ。

 

ただ、しばしば過剰適応的になることがある。

もう自分で話し広げちゃうみたいな。

別に下ネタ、嫌いじゃないけどそんな話すほど好きじゃないのに。

 

とにかく、私はその延長上でこの展覧会に行った。

SNSにも載せた。

だって「私はそういう話もできる女」だから。

もう自分で発信していくよ。

 

しかし、この展覧会(というか都築響一さん)が

あえてエロをやることの意義には

私のような女の自己承認欲求ではない

もっと純粋なエロへの欲求・探求があり

そこに私は感動と、ある種の心地よさを感じていた。

 

私はエロには興味がある。

自己承認欲求によるエロへの対処で隠されていたが

私はエロには興味があると、この展覧会ではっきりわかったのだ。

ある種の心地よさとはカタルシスだった。

 

でも別に、エロ本やエロ動画を人より見るわけじゃない。

いわゆる、エロい、ではない。本当に。多分。

 

ラブホテル、秘宝館、イメクラ

ただの肉欲じゃない、このエロ、この欲求の神秘。

何言ってるかわからない。

 

とにかく、何と言っても、日本人のエロへの想像力。

春画展があの大英博物館で行われるほど

日本のエロは文化的・芸術的に世界が注目しているのだ。

一応文化を学んでいる身として、興味をもつのも疑問ではない。

 

さて、いつ死ぬかわからない。

私が今死んだらどうだろう。

エロトピア・ジャパン

と書かれたこの資料を脇に置いて。

 

べ、別に、私はエロいわけではなくて〜

という言い訳をいちいちしたいわけではない。

そういった文化に理解ある人も多く、今更弁明することもない。ということもある。

万が一、私がエロいということになってもいい。

そもそもエロいことにマイナスのイメージは基本的に持っていない。

自己認識との乖離があるのは心地悪いが、まあ人がそう思うのならそうかもしれない。気にしない。死ぬし。

 

ただ、父親、母親。

私は、文化を学ぶものとして興味があるだけで

これはその、そのための資料で、えっと

私普段別にそういうの、全然、興味ないんだけど

えっ。えっと。あれ。

 

パパ、ママの理想的な娘でいたい。

私は絶対死なない。